日本はこれまで様々な自然災害に見舞われてきました。
最近では、元日の夕方に起きた令和6年能登半島地震が記憶に新しく、今後地震や津波、洪水などの自然災害に備えるための十分な対策を講じることが重要視されています。
学校や地域社会での訓練や指導を通じて、適切な行動や対応方法を身につける取り組みが行われていますが、一方で解決しなければならない課題もあるのではないでしょうか。

国や地方自治体は災害対策に関する情報を提供し、防災意識を高める啓発活動を行っていますが、いつ身の周りで起こるかもしれない災害に対する高い防災意識を持つこと、発災時において自身や家族の身の安全を守ることができるか否かが私たち自身に問われる時代がすでに到来していることは否めません。

災害に遭遇した際の具体的な行動や対応方法を学ぶ機会が不足していないか、理論だけでなく実践的な訓練が求められていないか等を鑑み、災害時において被災地で活躍できる人材をいかに育成していくのかを、令和6年能登半島地震の事例を交えながら、防災・災害対策の専門家である斉藤容子先生にお話を伺いました。

関西国際大学客員教員
兵庫県立大学客員研究員

斉藤 容子
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株式会社SAEマーケティングワン
代表取締役
一般社団法人全日本動物専門教育協会
専務理事
大野 公嗣

(大野)先生とは、私の母校関西学院大学災害復興研究所でお会いして以来、私たちのペット防災活動にご理解いただき、本会主催の防災セミナーの講師を務めていただいております。先生ご自身も発災後、何度か能登の被災地を訪れられていましたが、現在の能登の被災地の状況をみて、日本における防災・災害対策はいかがでしょうか。

(斉藤)私たちはできていると思っていた、でもできていなかったということを繰り返しているというのが現状ではないでしょうか。阪神・淡路大震災から30年が経とうとしており、さらに東日本大震災から13年が経ちました。大災害を繰り返すたびにその教訓から学ばねばとインフラなどのハード面、そして制度や人材育成などのソフト面の議論がなされ、「想定外」を無くそうと進化をさせていると信じていました。

しかし残念ながら、能登の現状をみると、まだまだできていなかったのだと思わざるを得ない状況です。現在の制度では被災した市町村の行政職員が最前線で働くことになります。近年の行政改革によって地方公務員の数は少なくなっており、また合併によって地域が広くなっているという地方において、自身が被災しながら、市町村の業務を担うには無理があるのは当然です。もっと外部からの支援を受けられる体制が必要であり、その整備を平常時からしておくべくだろうと思います。

(大野)では、実際にどのような整備が必要なのでしょうか。

(斉藤)被災地にはありとあらゆるニーズが被災者の数だけあります。例えば、ペットがいるご家族にはそのご家族のニーズがあります。しかし、それはペットを飼わない人からすると、家においてくればいいじゃないかとなります。

2024年2月輪島市堀町付近

実際私は、能登半島地震から1か月が経った時期に被災地を訪れました。ペットが入れる避難所を整備した団体があり、車中泊をされていたペット連れ家族が足を延ばして寝られると、喜ばれたという話がありました。行政は通常の避難所対応で精一杯になっていますので、こういったある意味「想定外」のことに関しては思考停止状態に陥ってしまいます。

日本の災害支援団体はこの30年で様々な経験を経て専門性を持つようになっています。かたや残念ながら行政組織は体制として2,3年ごとに職員が変わります。危機監理課にいてもたまたまそこに配置をされていた行政職員が運悪く災害にあってしまったので、災害対応をせざるを得ない状況になっただけで、災害対応のプロではありません。

このような状況が必ずどこの被災地でも毎年のように起こっています。であれば、行政がやらねばならないことは行政が集中してやり、専門性を持つ団体にはそれぞれの専門性に応じたところに入ってもらうといったことを調整しておけば災害後に混乱は少なくなるのではないでしょうか。

(大野)行政と外部の専門性を持った団体との平常時からの連携ということにおいては、私たちのような団体にも役割があるような気がします。専門性を持った団体に属していない人も多くいますが、その点についてはどうでしょうか。

(斉藤)もちろん皆が専門性を持った団体に所属しないといけないということを言いたいわけではありません。今回能登の被災地で強く思ったのは、結局はそこにいる人たちがどれだけ動けるか、それを外部の専門性を持った団体がどれだけ支援できるかということだと思います。

そのためにはまずは自分自身、家族、大切な人たちの命が守れるか、そのための準備ができているかという個人レベルの問題があります。いくら自分は動ける人材になるぞと思っていても自分自身が助からなければ意味がありません。自分の住んでいる地域を襲うかもしれない災害、どこに誰とどのように避難をするのかといった個別の避難計画(タイムライン)をそれぞれが持つことがまずは第一歩です。

そして、次に地域の中でどのように動けるかという話になるかと思います。日本にはほぼどの地域にも自主防災組織があり、そこが訓練などは実施していると思います。まずはそこに参加をしてみて、どのようなことをやっているのかを知ることも大切でしょう。避難所運営にしても少しでも知識があれば、やれることは多くなりますし、複雑な災害支援制度についても誰かに教えることができます。

また積極的な防災活動に参加をせずとも平常時に地域と関わりあいを作ることはできると思います。結局平常時の街の在り方が災害時にも出ます。今回行かせていただいた地区では、災害直後から自主避難所を設置し、通常の避難所では炊き出しがない中、そこでは3食、女性たちが中心となって毎回温かい食事を出されていました。

しかし、長期になると女性たちが疲弊してくるので、外部の支援団体がサポートをできる限り行いながらやっていました。また災害後に在宅避難をされている方などの把握も普段の顔見知りの方々と外部支援者が一緒に回るといった取り組みもありました。これは平時からお祭りなどの行事を通して地域での関わりあいがあったからこそできたことです。

結局災害後に何か始めようと思っても無理なことです。普段の街の姿がそのまま出るということを改めて認識しました。災害前にやれることは多くあります。おひとりお一人がご自身の災害対応のレベルアップを図ってほしいと思います。

(大野)災害に強い社会を創るには、私たちのように専門性を持つ団体存在の意義は大きく、行政との関わりを深く持てるかどうかが重要になってくるのですね。また同時に、ペット飼養者ひとり一人の災害対応のレベルアップを図っていかなければならず、本会が展開するペット災害危機管理士®講座はとても重要な役割を担っていると思います。これからも、人とペットを守るために、ペット防災における啓発活動を日頃より継続し、災害時ではペット飼養者の方々をはじめ被災された方々のお役に立てるよう人材育成に努めていきます。
斉藤先生、本日はありがとうございました。

 

ペット共に災害を乗り越えられるように

SAEは、災害時に人とペットの身を守るために必要な危機管理が、5つの異なる分野から学べる講座を2015年に開講した「ペット災害危機管理士」を中心に開講しています。
様々な視点から学ぶ機会を提供することで、より柔軟な思考や幅広い知識が身に付き、さまざまな状況にも対応できる力をもった人材が誕生することは、その人個人の成長にもなり、また、人のため、ペットのため、社会のために貢献できる人材にも繋がっていくものだと思うからです。
学ぶことで、人もペットも「安心」、「安全」、「幸せ」に暮らせるレジリエントでサステナブルな社会を目指しませんか。

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